- 238 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/04/30(土) 23:44:34 ID:ZAiKOimW0(7)
- 弟を小さいころから大好きな姉。
この気持ちが恋であることを知りつつも、弟や親に迷惑はかけられないと思い
その思いを胸の奥にしまい、弟離れするため彼氏を作る。
でも自分の弟を見る肉感的な視線に、嫌悪してしまうのだった
ある日友人と話してたら男は財布にコンドーム入れてると言う話を聞く。
愛しい弟もそうなのだろうか。弟は奥手だしそんなことは・・・。
よくわからない衝動が自分の中に渦巻いている。
チャンスはすぐにやってきた。目の前の弟の財布を見る。
中にコンドームがあった。小さい頃から弟として神聖視していた存在であったものがいきなり生々しさを帯びた。
自分の内にくすぶる肉感うずまく欲情も、なんだか当然のものなのではないか？
なんだか笑いがこみ上げてきてわらってしまった。とても楽しい、嬉しい気持ちが噴出してきた。
- 244 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/04/30(土) 23:57:15 ID:ZAiKOimW0(7)
- なんだか幼いころに封じこめた自分自身も浮かび上がってくるような高揚感が襲う。
実際、なぜかコンドームに水を入れて水風船を作って弟にぶつけてしまった。
幼稚なことすぎて自分でもおかしい状態であることを自覚する。
急に素に戻ってしまい、自分に少しの叱咤をした。
その気持ちがあったせいか自分のしたことなのに服が濡れたことを弟にしかりつけてしまう。
冷静になるためにシャワーをあびることにした。
今日の自分はおかしい。でも、もしかしたら弟と・・・なんて思ってしまう自分もいた。
身体が熱く、具体的ではない熱があがりだしたそのとき、突然の声に身体を振るわせる。
「寒いから入れてよ」
これは夢なのだろうか。今まで、というか幼いころ入って以来まったくそんなことを言わなかった弟が
風呂を誘ってくるのだ。弟も自分と同じ気持ちなのだろうか？そんなまさか・・・
そして実際にお風呂に入るという行為が具体的に頭に浮かぶと、猛烈な気恥ずかしさが襲ってきた。
「バーーーカ」
冷静を装って、なんとかそう言ってはぐらかした
- 253 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 00:16:06 ID:baDEn7RD0(13)
- お風呂からでる。弟と目を合わせられない。
弟はすぐにシャワーをあびにいった。
今日は不思議な日だった。でももうそれも終わりなのだろうか？
なんだか胸が苦しい。終わらせたくなかった。この日を引き伸ばしたかった。
今日の発端であるコンドームが目に入る。これを使えば、まだ今日という日は終わらない気がした。
昔に封印した幼稚な気持ちを奮い立たせ、コンドームを膨らませだした。
この気持ちはなんだというのだろうか。顔がほころぶ。笑いがこみ上げる。
さっきまであった不安は消えうせていた。
弟がでてくるまでこの高揚を続けさせておきたい。一個一個にマジックで顔を書いていった。
待っていた弟がお風呂からあがってきた。まっすぐこっちにくる。私のみた風船をみて一言
「弁償しろよ」
冷静な一言を言い放つ。自分の気持ちも一気におちこんだ。冷静さを取り戻した頭がすぐに回りだした。
弁償しろ？ということはこのコンドームはここ数日で使う予定だったのだろうか？
相手が、自分の知らない間に女ができたのだろうか。顔が引きつるのを感じた。顔だけではない
身体の皮膚がつっぱる。さっきまでごちゃごちゃだったのとは対照的に脳は真っ白、いや真っ黒に染まっていた。
女ができたのか、自分も男を作ったのだから攻められない、いや姉なのだから責めることなどできないのは当然だ。
でも、問い詰めたい。女が出来たのか。どうすればいいのか・・・
「使うあてないくせに」
引きつる顔にどれでもいいからと感情を描いて、なんとか会心の攻撃をくりだした。
- 263 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 00:34:36 ID:baDEn7RD0(13)
- 長い。いや、実際は一瞬なのかもしれない。でもなんといえばいいのだろう。密度が濃い時間といえばいいのか。不安と恐れが凝縮された時間。
返事が返ってこない。自分の跳ね上がる心臓の音だけが部屋に響いているような静けさ。
これでは自分の鼓動ごとこの気持ちが弟に聞こえてしまうんじゃないのか？
はやく、早く答えを！
でも返ってきたのは私の聞きたかった答えではなかった。
「どうすんだよこれ！」
はぐらかされた。怒りがこみ上げる。怒号をあげそうになるが、反面、恐れていた答えでもなかったことに安堵する自分もいた。
そして今の自分には安堵のほうが強いようだった。
「いいじゃん別に。飽きたらちゃんとかたしておくから」
終わった。日常に戻ってきた。さっきまであった高揚や不安は微塵もなくなっていた。
勇気のない自分。今までの理性的な自分。今までの自分が、そしてこれからの自分が帰ってきた。
瞬間。
「いやそうじゃなくて・・・姉ちゃんと使うつもりだったのに」
- 267 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 00:58:35 ID:baDEn7RD0(13)
- 冗談だとはわかっていた。でも、好きな人にそうと分かる言葉を囁かれて、それを喜ばない人間がどこにいるだろう？
高揚する気持ちが抑えられない。こんなに気持ちを揺さぶられることが今までの短い人生であっただろうか。
こんなに幸せな気持ちを、今まで与えられたことがあっただろうか。
冗談でもいい。私のこの気持ちを、この大切な思いを、その甘い言葉に重ねたい。
理性的な自分が手助けしてくれた。いや、邪魔したのかもしれない。
「いや今使ってるじゃんいっしょに」
そういってごまかして、私の思いをのせた風船を弟の身体に重ねるべく投げつけてやったのだ。
風船は好きな人に届いた。私の思いも届いてくれることを信じた。
今の私にはそれだけでも上出来だ。
「・・・いや冗談だよ？」
弟はお互いに分かりきっているはずのことを口にだした。やっぱりというか、当然気持ちは伝わらなかったか。
それとも、嬉しい気持ちが顔にでてしまって本気で喜んでいることがばれてしまったのだろうか？
最初本気で口にしたのだろうか？いや、姉に使うなんて冗談でも嫌なんだろうか・・・
弟も気まずくなったのかPCにむかって黙ってしまった。
いくつもの不安が入り乱れて苦しい。私には耐えられない。
でも、最後に勇気を振り絞って、この思いの断片だけでも伝えたい。
「実際使うときになったら買ってきてあげるよ」
それは皮肉とも誘惑ともとれないただただ冗談じみた言葉だった。
- 277 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 01:16:24 ID:baDEn7RD0(13)
- 頭を冷やしたかったからか、身体の熱を冷やしたかったからか。
私は外にでた。弟と同じ部屋にはとてもいられない。
どこかに行くあてがあったわけではなかった。コンドームを買いにいく？
実際外気に触れると頭が冷やされる。箱の中には少し空白があった。財布に入っていた分を入れても、足りない・・・
私は姉だ。弟に女として愛されることはないだろう。
だからと言ってどうして愛する人を奪った女のために使うであろうものを、よりによって私が買いに行かねばならないのか！
歩みが速まる。コンビニにはすぐにたどり着いた。
お詫びにコンドームを買うべきなのだろうか。弟が必要になったと告白するのを待つべきだろうか。
残酷すぎる・・・、でも、今の私にはその告白さえも贅沢なのだ。弟が姉にセックスを告白する義務などないのだ。
私は女じゃなく姉でしかない。そんなことはこの数年何度も何度も繰り返し自覚させられてきたことなのだ。
胸の下から黒いものが湧き上がる。少しいたずらしてやろうか。
口元には自然と笑みが浮かんでいた。
- 288 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 01:37:56 ID:baDEn7RD0(13)
- 家に戻ると弟はまだPCをやっていた。
コンドームはジュースを入れている袋にいれて隠し、竹の子のやまだけを別の袋に入れあからさまに
コンドームの箱であるように強調した。
でもさっきのことが思い出されて中々仕掛けずらい。コンドーム風船をしぼませてかたずけつつ様子をみる。
「何買ったの？」
食いついてきた。素直で大変よろしい。可愛い弟の素直な反応をみるとやっぱりいたずら心が高まる。
少しじらしてやることにした。片付けている間返事をせずに黙々と作業に没頭している振りをする。
弟は本当にたまにだけど、チラっとこちらを伺ってくる。かわいい。
ちょうど片付け終わった。弟にコンドームのように見える竹の子の山の入った袋を見せ付けつつ近づいていく。弟はこちらをみている。
手品を披露するマジシャンのように演技じみた心境で言った。
「はいこれ、代わりのお詫び。封開けるとき呼んでね」
弟を騙すための演技なのに、自分が騙されたように顔が熱くなるのを感じた。
急いでその場を離れた。弟の顔をみたい。でも私の顔をみられたくない。
ただ私のはやる気持ちと同じように足のはこびだけがはやまった。
- 295 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 02:03:30 ID:baDEn7RD0(13)
- 自分の部屋に急いで入った。すぐに後悔の念が襲ってくる。
なぜあそこで弟の反応をみなかったのか。喜んでいたか。嫌がっていたか。怒っていたか。ただ驚いていたか。
自分のふがいなさに自己嫌悪する。これではどちらがいたずらされたのか分からない。
そうだ。今から、いや、明日会った時の弟に会った時でもいいのでは？
いやそもそも自分は何を期待しているのか？中学生でもあるまいし妄想がひどすぎる。
はしゃぎすぎの自分を戒めようと誓おうとしたそのとき、ドアがノックされた。弟が、入ってくる。
つい数秒前はあれだけ反応を知りたがっていたはずなのに、知るのが怖い。怖かった。
「ちゃんと袋の中みた？？ｗ」
口から思いもよらず軽い感じで本題が飛び出した。
「つーかもう全部食ったwwww」
返事も軽く返ってくる。実りはない。いや、喜んでいるこの弟こそ実りではないか。いや、そんなことは今問題ではない。
やはり、箱が竹の子の里であると分かる前でないと反応を見る意味はなかったのだ。
一気に気持ちが落ち込んで、数十秒前の自分に怒りがこみ上げる。
「ちょっと！アレは自分で食べたいから買ったのに！！何やってんの！？」
また弟にどなってしまった。こんなはずじゃ。
「え？ちょ」
「封開けるとき呼べって言ったじゃん！ 約束守れないんだったらこれはお預け。高いやつなのに残念〜」
もう当初の目的はなくなっていた。そして買ってきたコンドームをネタにしてまくし立てる。
そしてその裏では動揺していた。弟と部屋で二人きりなのに、私コンドームもってなにやってるの？
顔が赤くなりどうだった。それは弟も同じようだった
「っていうかおかしでしょそれは ちゃんと弁償しろよ」
顔が赤い。その弟の顔をみていると私ももっと恥ずかしくなってくる。でも、それは姉に対しての意識なのか、
女としての意識なのか。もしそうだとしたら嬉しくてたまらなかった。いたずらしたい衝動もとまらなくなってくる。
- 305 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 02:24:58 ID:baDEn7RD0(13)
- 「ん〜〜〜。」
いたずらしたいという衝動が部屋に雰囲気として充満していた。瞬間的に私は思い至った。
この雰囲気だったら、弟に彼女ができたかどうか、もう一度さぐりを入れられるんじゃ？
一瞬で決断し私は雰囲気に後押しされた
「まぁしばらく預かっててあげるｗ どうせ使わないでしょｗつーかアンタ彼女できたの？」
言った。今度こそやった。また例の不安が襲ってくるが、このままもやもやしたままじゃどうにかなってしまいそうだ。
どうか一思いに答えを！できれば私が望む答えを！
「・・・・・いや・・・そういう問題じゃないって！」
はぐらかされた・・・いや、まだだ。まだいけるはず。優柔不断な弟の姉を私は何年やってきたのか。こんな時こそ姉の余裕を利用するのだ。
「彼女もいないのに買うなってｗ」
これでどうだ。挑戦的で誘った感じに言えたはずだ。今度こそ逃げられない！
弟と自分に最後通牒を通達した。さっきから緊張でどうにかなってしまいそうだ。
だけど、それもこれで・・・
！？弟はいきなり何も言わずに部屋から出て行ってしまった。まさか、怒らせたのだろうか？
いや、これくらいで怒るほど弟は短気ではないはずだ。その分優柔不断ではあるけど。
- 312 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 02:52:00 ID:baDEn7RD0(13)
- 弟が外にでていく音がした。まさか、本当に怒ったのだろうか。
私がいたずらせずにコンドームをちゃんと渡しておけばよかったのだろうか。
今から追いかけて謝ろうか。やっぱり姉が弟の彼女について聞くのはまずかったのだろうか。
そもそも、自分は弟に抱かれる資格などないのに、それなのに弟が奪われている証拠を、
何が楽しくて知りたいというのだろう。独占欲だろうか。いや、好きな人のことを何でも知りたいのは当然のことだ。
ああ、こんな時でも私はこんなに弟を愛していることを再確認してしまっている。駄目な姉なのだ。
不安が身体を締め付ける。金縛りにあったようにうごけなかった。
しばらくすると弟が玄関を開ける音が聞こえた。ハッと震えた。どうしよう。どうしたらいいのだろう。
私は・・・頭が重くなっていくのを自覚していた・・・。
いつの間にか弟が、私の部屋にきていた。いつもと変わらないその顔がそこにあった。
私の渦巻く不安も、恐れも、後悔も、黒い思いも全て洗い流された。そんな気がした。
「話の途中で出てなにやってたの？ｗってか外行ってたでしょ？？一言言ってからにしてよｗ」
ああ、これはいつもの私だ。弟をすきな私だ。
「続けるほどの話じゃなかったじゃん ハイこれ」
憎たらしいことを軽く言われた。小憎らしいがでもいい。許す。差し出された袋をうけとる。
「え！？わざわざ買ってきてくれたの！？ いいのに・・」
私の不安は杞憂だったようだ。心から安堵のため息がもれる。
中にはさっき買ってきた竹の子の里・・・ではなくきのこのやまが入っていた。
「ってきのこの方ですかｗきのこはあんまり好きじゃないのに 何やってんのｗ」
「仕返しだよｗ」
若干色々と悔しかったが、この弾む気持ちはやっぱり弟のおかげだった。
さっきまでの暗い気持ちをこんな幸せに変えてくれる。私の好きな人。
「まぁ でもありがとう」
ああ。私は今好きな人の前にいる女の子の顔をしちゃってるんだろうなぁ。気恥ずかしいような、これでよかったような。
そんな思いが浮かび上がりながら口元から笑みがこぼれるのが分かった。
- 315 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 03:07:07 ID:baDEn7RD0(13)
- なにかしてあげたい。いや、私がしたいのだ。
唐突というには、あまりにも毎日漠然と思っていた衝動が形を成し始めていた。
お礼がしたいのだろうか？この気持ちに対するお礼がいいたいのだろうか？
いつも禁じていた何もかもが許されるようなそんな一日だった。
夢だった。もう終わることは分かりきっているような気がした。最後に。
これはお礼になろだろうか。少なくとも私が受け取ったら嬉しいものだった。
今日という日を始めたきっかけがコンドームであるというのは、なんともムードにかけるけど。
私はそれを差し出す。
「まあじゃあご褒美としてこれあげるよ」
弟が箱を受け取る。けど、私が差し出すのはこれじゃない。
唇が触れた。キスした。初めての恋人同士が、初恋の人にするように。柔らかい、優しいキス。
今日という日の終わりに。一度だけ。
- 323 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 03:38:00 ID:baDEn7RD0(13)
- 何も考えられない。考えたくなかった。
キスした。絶対に結ばれないと思っていた好きな人と、キスした。
あってはならないことだった。今まで何年も我慢して、絶え続けてきたことが全て無駄になってしまった。
この罪悪感は一生消えることはないのだろう。親にはなんと申し開きすればいいのだろう。
私は一生償えない罪を犯してしまったのだ。
でもどうしてだろう。いやわかっていた。わかっていたのだ。でも思わずにはいられない。
どうしてこんなに嬉しいのだろうか。もしかしたら、この気持ちを抱いてしまうのを恐れていたのかもしれない。
引き返せない。こんなに強くなってしまった弟を好きな気持ちを。
弟はいつのまにかいなくなっていた。いきなりいなくなったりいきなりもどってきたり。
私の心の中にも不安や幸せをいったりきたりさせたり。惚れたら負けというのは私にぴったりの教訓だ。
弟がまた突然戻ってきた。どれくらいいなくなっていたか分からない。時間の流れがおかしい。
弟はしゃべらない。私もしゃべれない。なんだか弟の無言が私を責めているような気がした。
それは私の内からくるものであることは分かっていた。でもそれだけのことを、したのだ。
罪を犯したのなら、罰を受けなければならない。私は償おう。
・・・「ごめんね」
やっとこれだけをいうことができた・・・
弟はそれを聞くと泣き出した。ああ、優しい子だ。罰を受けるのは私だけでいいのに。それなのに。
「ごめん」
弟は懺悔したのだろうか。いや、私の気持ちは分かってないだろう。まったくの正反対でありながら、それは私の願望であったかもしれない。
でも今弟が流しているこの涙は、私が流させたものだ。そう、私の愛を弔うためには十分な懺悔の涙だ。
弟は何か漠然と感じ取っているのかも、あるいは意味なんてないのかも。
でもただ１つだけ確かなことは、弟の涙は私が流させたもので。私の恋を人知れず弔うには十分な価値をもっているということだった。
だから私もこの恋を弔うために涙を流した。弔った。
「ごめんね」
でも、謝りながら、その謝罪の言葉は弟に言った言葉なのか、自分の気持ちに対しての言葉なのか
自分でもわからなかった
- 330 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/01(日) 03:58:15 ID:baDEn7RD0(13)
- 私が落ち着いてくると、弟が泣いているのをただみているなんてできなかった。ティッシュを渡して背中をさすってあげる。
弟はまた涙をながした。気が高ぶっているのだろうか。
「なんだか今日は自炊する気にはなれないね。どっかたべにいこっか」
張り詰めた、湿気のこもった部屋に音をひびかせる。一人で続ける。
「ドライブがてらさ。買い物にもつきあってよ ね？ｗ」
弟は涙をとめようと息をすいこみなんとかたちなおすと
「うんｗいこいこｗ」
お互いに泣いて、なんだかすがすがしい気分だった。
泣きすぎて目が赤い。夜気にあたれば腫れも引くだろう。
人の心の熱も、夜気にあたって収まればいいのにと心のどこかが皮肉っぽく洩らしていた。
- 604 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 00:00:52 ID:baDEn7RD0(13)
- 弟とドライブがてら食事をして買い物をすませたころには、日が完全におちきっていた。
家を出た時にあったわだかまりも完全にぬぐい切れていたように思う。
私の弟に対するこの思いを告げることはもう、ない。
弟の初恋の人に対する最初で、そして最後のキスは、弟を苦しめただけだった。
昔から考えていたことだし、分かりきっていたことだった。
もう私のせいで弟を泣かせはしない。この気持ちを永遠に封印することを私は固く誓っていた。
けど、その思いが永遠であることも確信してはいた。
帰りの道すがら私は口を開いた。
「あのさ、今日のことだけど・・・忘れちゃってよ。ね？」
「今日？あ・・・、うん・・・」
二つの対立する気持ちが私の中でうずまく。
「嫌じゃなかったらまたたまにはこういう風にご飯食べたり一緒に遊びに行ったりしない？」
未練だ。さっきの覚悟はどこにいったのだろうか。
でも、私はこうして普通の姉弟として一緒にすごせる時間すら欲しくて仕方ないのだ。
「いいよ」
軽い返事だ。ただの姉に対する答えなのだから当然なのだろう。でも私がこれからすごす時間というのはこういうものであるはずなのだ。
「おーけー。じゃあ、映画！映画いこう！」
単純に一緒にいられるという約束だけで、私の心は簡単に躍っていた。
- 619 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 00:20:50 ID:hGtMqqtO0(6)
- 家に戻ると私はすぐにベッドにはいった。
さっきまで歩いていたことが奇跡であったと思えるくらい、身体に力が入らない。
ベッドにずぶずぶと沈みこんでいくような気がした。私の意識が睡魔のフチにしずみこんでゆく
弟に口付けた記憶をたぐりよせ抱きしめる。後悔も自戒もなく、ただただ幸福だけが私を包み込んでいった。
夢の中にも弟がいた。今日はついている。今日の夢はなんというのか。現実味があって肉感的でそれでいて・・・
うっすら暗闇がかっていて・・・！？
「なに！？」
いた。弟がとなりにいた。私のベッドの横に。夜這いだろうか？そんな馬鹿な。いやそれは望む所ではあったが心も通わせずに抱かれるのはいやだった。
寝起きだからだろうか。脳がまったく働いてくれない。見当ハズレな思考がかけめぐっている。
でも頭がフル回転したとして、一体どうして寝ている私の部屋に弟がいる理由を答えることができるだろうか？
昔のように一緒に寝ようとでもしたのだろうか？そんな馬鹿な。なんでこの歳で。
「いや、たまには一緒に寝たりしてみない？」
当たった。本当に一緒に眠りにきたらしい。でも、本当にそれだけだろうか。寝ている私に何かしたかったのではないのだろうか？
これから眠って、一緒に何かをしたいのではないのだろうか？
自分の願望が十二分に入っていることはわかっていた。それでも私の中では一緒に寝るということはそういうことなのだ。したい。
だけど、今日のキスのように、私は弟を泣かせない。そう誓ったばかりなのだ。
「馬鹿。またなんかして泣かれたりしたらやだからだめ」
- 623 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 00:39:13 ID:hGtMqqtO0(6)
- ああ、なんだこれは。これでは私がなにかしたがっているとしかとれないではないか。
気持ちを伝えることはもうない、と誓ったばかりなのに、弟が目の前にいると、叫びたくなる。
この思いがあふれこぼれてしまって、どんなに頑丈な鎖で閉じ込めても後から後から愛をつむぎだしてしまう。
私は弟を守るのだ。この愛欲からかわいい弟を守るのだ。
「いや、ただ一緒に寝るだけだからさ なんかって何よ 俺は何もしないからさ」
こっちが何かしてしまうのだ。なぜわかってくれない。絶対だ。必ず私は弟を抱きしめる。
このしたたりあふれるものをすべてぶちまけてしまうだろう。そして弟をまた苦しめるのだ。
そんなに私と寝たいのだろうか。嬉しい。けど、駄目だ。どんな思いで私が拒否しているのか分かってない。
これは弟のためなのだ。どうしたらわかってくれるのだろう。
分かってもらうしかない。今思っていることを、おこっていることを、そのままいうしか、ない。
「こっちが何もしない保障ができないから今日は無理」
言った。とんでもないことを言った気がする。ことのほか勇気が必要だったのはそのせいか。
「ベッドの下の床で寝るならいい？」
そんな。そんなに私のことを・・・。いや勘違いしてはいけない。弟は何もわかっていない。鈍感！
「そこまでする必要ないでしょ」
どうしても折れてくれない。私は、私の願望はかないつつあった。でも私の誓いはすぐにでも崩れ去りそうだった。
何度もすがり付いてくるかわいい弟に、私はとうとう折れた。私の誓いは、完全降伏した
- 645 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 01:08:55 ID:hGtMqqtO0(6)
- 久しぶりの二人での睡眠。懐かしさが広がっていく。でも、あの幼いころの空気とはなにかが違っていた。
弟はそんなことなどなく、懐かしさに身を任せているようだった。
しりとりした。こんなことをするのは何年ぶりだろうか。楽しかった。久しぶりのしりとりがよかったのだろうか。
いや、間違いない。弟が私のすぐ隣で寝ている。これ以外の理由が見つからない。
１時をすぎたころ、部屋は静まり返っていた。弟は寝息を立てていた。
安らかな気持ちとドキドキした気持ちが同居していた。不思議な感覚だった。
今日１日で今まで感じたことのない気持ちを本当にたくさん味わった。夢のような１日は、ついに終わる。
夢のような・・・。ぼーっとしたまま弟の気配をさぐる。愛しい存在を６感がなでまわす。
音を立てないように。ベッドのきしむ音が胃をきりきりとしめつける。みだらに距離をつめていく。
障害などないように。床すら私に敵対し軋み声をあげる。獲物はもうすぐ自分の思いのまま・・・。
弟の肉体は数十センチのところまできていた。
「〇〇・・・」
唇だけで弟を呼ぶ。息を止める。指が弟の服にふれ手のひらが肌にすりついてゆく。
私の。腰をすりよせる。弟が今、この瞬間に目覚めても大丈夫なようになるたけ不自然ではないようにちかづけていく。
太ももを打ち上げて、ふくらはぎを弟の内股に絡ませる。
寝ている間のことなのだ。寝ている間に何かに抱きつくことは不自然なことじゃない。
息が荒くなる。ああ〇〇・・・。
今までにない荒い息遣いに私は倒錯し、そして焦っていた。このままでは・・・。
なんとか気持ちを押さえつける。猛獣使いの心境で欲情をしつける。
なんとか、なんとか落ち着きをとりもどした。でも身体を絡めたままではすぐに檻から飛び出すに違いない。
心底惜しみながらも身体を離す。キスはしない。冷静になってみると、ここでするのは違うと思えた。
少しだけ体の一部を触れさせたまま、言った。
「おやすみ、〇〇」
目を閉じる。すぐに幸福が身体を包み込んだ。弟の記憶をたぐりよせたのではない。
なぜなら隣に、私のすぐ横に、本物の私の好きな人が眠っていたから。
- 688 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 01:42:27 ID:hGtMqqtO0(6)
- 気配を感じて目を覚ました。
６時を回っていた。
弟がいない。隣にいたはずの弟がいなくなっていた。
どこに行ったのだろうか。まさか、私が寝たと思っていただけで、昨日の、あの夜、弟は起きていたのではないのか？
私がみだらに身体を絡ませたことにショックを受けて私が寝た後すぐに部屋をでていったのでは？
純粋に姉とスキンシップがしたかったであろう弟の気持ちを。あるいは、昨日のおかしな私を心配に思ってやさしくしてくれた弟の気持ちを。
私はまた裏切ってしまったのだろうか。不安だった。
でも、ばれていたのなら、昨日の夜キスをしなかったことにとても安堵している自分もいて、こんな時でも計算している自分を嫌悪した。
上体を起こして寝ぼけまなこをこする。表情は今だにねぼけているが、頭の中は嵐が吹き荒れていた。
するとノックもなく弟が入ってくる。聞きたいことが率直に口からでた。
「どこいってたの？」
私の頭の中が固まる。なにも考えがまとまらない。
「ちょっと目が覚めた」
それだけ・・・、軽い弟の返答に私は頭の中でこけた。杞憂だった。
「でももうちょっとここで寝てていい？」
飴とムチ、この場合、ムチと飴か。一人で自分にムチを打っていただけだったけど。
それでもさっきまでの沈んだ気持ちと「でももうちょっとここで寝てていい？」という魔法の言葉で得た幸福の落差で
私の頭の中にはお花畑が咲き乱れた。
「ん。いいよ。」
床からベッドに上がる。弟が私のいた床に寝ようと腰をおろした。
瞬間、腕を捕まえ、ベッドに引っ張りこみながら
「こっちでいいよ」
と言った。夜ではなく朝の若干明るい時間ならよこしまな気持ちも起きないだろう。
そんな考えもあったのかもしれない。
「なんで結局下で一緒に寝てたの？」
弟がいきなりきついストレートをうちこんできた。でも、半分寝ぼけている上に頭の幸せな私にはなんてことのない問題だったようだ。
「下で寝てられると気になる」
本当はそれだけじゃなかったけど、嘘ではなかった。
答えのあとに、「好きな人だからいつも気になるんだけど」と付け加えれば完璧だった。
- 708 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 02:10:05 ID:hGtMqqtO0(6)
- １０時頃再び目を覚ました。
隣には愛しい弟が眠っていた。恋人同士がそうするように、二人で朝を迎えた・・・。
自己満足でもよかった。
昨日１日で自分の弟に対する思いをはっきり知ることができた。
もう迷うことはない。彼氏と別れよう。
一生弟に迷惑をかけずに、弟への愛のために生きるのだ。
わがままなことかもしれないが、これが私のだした答えだった。
２人で朝食を食べ終わると私は決意を表にはださず弟に宣言した。
「ちょっと彼氏と会ってくる」
あんまりべったりした関係ではなかったが、うすっぺらい間柄でもなかった。
でも私の中ではすでに答えがでている問題だった。ずっと昔にでていたかもしれないのだけど。
お互いに言葉を尽くしてゆくが、ゴールのみえている私には作業的な光景にもみえた。残酷だった。
弟は８時ごろ帰ってきた。
彼氏と別れたことを今すぐに言いたかった。〇〇を愛するために生きることを宣言したかった。
「彼氏と会ってた割には早い帰りじゃん」
待っていたフリがきた。でも軽い物言いからこれは私がいくら男をつくっても興味がないようにもとれた。
さっきまでいきり立っていた気持ちが少し沈む。
そして昨日の今日でいきなり彼氏と別れたことを告げると、弟はどう思うだろうか？という疑問が頭に浮かんだ。
これは順序を踏んだほうがいいかもしれない、クッションをおくべきだと判断した。
「来週の月〜水って一緒に旅行行く予定だったんだけど、キャンセルしちゃって、それでもめちゃって」
嘘ではなかった。ただ別れたからキャンセルになったということは告げないでおく。
弟はそれで納得したようだった。
これで次に彼氏との別れを口にしても唐突ではなくなる。
- 731 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 02:42:23 ID:hGtMqqtO0(6)
- お風呂から上がると弟が寄ってきて言った。
「風呂長いよ 俺も入りたいんだからｗ」
「入りたいなら前もって言ってくださいｗ」
昨日の出来事も、彼氏とのことも気にした様子はない。
今までどおりの日常の会話を交わす。
でも私の内面は１８０度といってもいいくらい変わっていた。
入れ替わりに弟が入っていった。
これからどうしようか。
弟に迷惑をかけない。弟への愛にいきる。
私の誓いはこの二つだった。今弟に告白すれば迷惑がかかるからできないけど、
それ以外は自由だった。これまでの禁欲的な自分からすれば、めまいがするほど広大な自由だった。
弟の近くにいたい。近くにいれば昨日のように何か起こるかもしれない。
私は居間に用事があるふりをしてうろうろしていた。
弟がお風呂からあがる。
二人で居間でテレビをみてジュースをみてくつろいでいた。
すると唐突に弟が
「でもさ、何で旅行キャンセルしたの？」
彼氏の話をした時、私の顔になにかでてしまっていたのだろうか？
いや〜。最近あんまし仲もよろしくないしさ。折角休みまとめて取れたんだから普通に休もうかなってｗ」
とりあえず咄嗟にそれっぽいことが口からでてきた。
「え？仲良くないの？結構仲よさげだったじゃん携帯で話したり」
私と彼氏が仲よくしていてもそんなに何も思わないのだろうか・・・。
彼氏とは別れたといいたい。他の男なんかどうでもいいっていいたい。
嫉妬してほしい。おこって欲しいのに・・・
「まぁいいじゃんｗそれより映画何観ようか」
気狂いしそうになる気持ちを脇におきさり別の話題に無理やりもっていった。
聞きたくない。私を女として全然みていないって。そう言われてるようで聞きたくなかった。
- 741 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/02(月) 03:15:04 ID:hGtMqqtO0(8)
- 雑談していても頭の中には「自分を女としてみてくれてない」という言葉が浮き沈みしていた。
そうだ。だからこそ自分は弟に告白せず、表面上姉として一生を生きる覚悟をしたのだ。
でも。
「いやでも、火水ぽっかりあいちゃって俺も出かけてちゃ暇でしょ。家にいてあげようか？ｗ」
でも、無理だ。どうしてこんなに無意識に深くえぐりつけたあとに優しい言葉を投げかけるのだろうか。
唐突な甘美な誘惑が私を翻弄する。
でも、私は誓いを守るのだ。それが弟のためなのだ。私のために迷惑はかけられない。
「あんたがそんな気使わないでいいから、ちゃんと遊んできな。折角計画してた約束やぶるのは良くない」
肩に触れながら、恋した女の心情とはかけ離れた、２０年以上慣れ親しんだ姉としての言葉として口から説教じみたものがつむがれる。
弟は納得したのか、部屋に戻っていった。これでいい。
駄目だ。自分の部屋にもどってそうそう、後悔がだだともれだした。
私が彼氏と別れたように、弟も友達との約束をキャンセルして私といてくれる、と言ってくれた。
嬉しい。私にしてみればこれはプロポーズの言葉だ。今すぐ抱きしめてキスしたい。
そしてすぐに冷静さが呼び戻されてこれではいけない、と頭を振り払う。
いきすぎた考えは抑えるとして、さっきの説教じみたものだけでは、私の気持ちがまるで伝わっていない。
嬉しかったと。その思いだけでもいいから。すぐに伝えたかった。
私は彼氏なんかより弟のほうが大事ですきなのだと。
冷蔵庫の氷をかき回す音が聞こえた。弟が水を飲みにきたに違いない。チャンスは今しかない！
急いで冷蔵庫のある台所に向かう。わざとらしいかも、とかそんなことを考える余裕はなかった。
私にはそうでなくても、明らかに弟には唐突であろう言葉を投げかけた。
「まぁさ、夏頃休み取れるんだったらどっか行くってのもいいね。
○○（彼氏の名前）とは夏まで持たないかもしれないし そうすると夏暇だからｗ」
しまった！これではあれだ。弟彼氏宣言。
顔から火がでそうだった。一から十まで挙動不審すぎる・・・
「え？そんな仲やばいの？？」
弟は天性の鈍感さで、私のアタックをヒラリとかわしてみせた。安心と失望のようなものが襲い掛かってくる。
そしてやはり「私は女としてみてもらえてない」という気持ちが私をがんじがらめにする。
「まぁとにかく映画は楽しみにしてるよ。バイトがんばってねおやすみ」
いきなりやってきて、唐突な言葉を一言残してまたさっていく・・・
なんてはずい女なのだ。私ってこんなに恋愛下手な人間だっただろうか？
今日は穏やかにねむれそうにない。
- 68 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 00:16:38 ID:WMwoFQTB0(3)
- いつのまに寝ていたのだろうか。目覚めると昨日と同じくらいの時間に目が覚めた。
１０時をまわっていた。弟は部屋で眠っているらしく、昨日のバイトの夜勤で疲れているようで夕方まで起きてこないだろう。
遅めの朝食とちょっと早めの昼食をかねた食事をとり、無心に英文に向き合う。
気づくと５時をすぎたところだった。もうそろそろ弟がおきてくるはず。弟のことが頭にフと浮かんできただけで、それまでの集中が霧散しだした。
手は英文にむかっていながら、頭の中では昨日の夜のベッドの中での反省会が再び行われていた。
弟が鈍感でなければどこでもばれていたかもしれない危うい言動ばかりだった。
キスをして、泣かれて、もう忘れて欲しいと私が自分からお願いしたばかりなのに、私は不用意に恋愛でいっぱいいっぱいだったせいか
アタックし続けている有様だった。
これではいけない。弟も忘れようとしているはずだ。今日からは、私も忘れるのだ。あれは夢だったのだ。色々な意味で夢だったのだ。
とりあえず、今日はただ姉として接しよう、そうしよう。
弟が起きてすぐ、外に出て行って、またすぐに帰ってきた。
「これ差し入れ」
弟がプリンを差し出した。随分と気が利くではないか。そうだ、この感じだ。姉として振舞うのはまったく難しいことではない。
私も弟も、キスなんてしなかったのだ。
「これも」
これは。たけのこの里だった・・・。あの夜の出来事を思わず反芻してしまう・・・。連想させるには十分なアイテムだ・・・。
きっとこれは弟のかわいい冗談なのだ。キスを忘れて、と言っても、その段階については範囲ではないらしい・・・。
雰囲気にも後押しされ笑いを浮かべながら
「じゃあ今度はちゃんと一緒に食べようか」
と冗談と受け取ったリアクションを返す。
封を開けて弟も座らせて二人でつまんでいく。そうか。これは昨日の私のいたずらの続きの再現なのだ。
弟が竹の子の里を食べずに、姉と弟として二人で仲良くお菓子を食べるはずの。昨日起こっていたかもしれない日常。
この竹の子の里を食べ終えても、もうキスすることはない。昨日の記憶を上書き作業しているのだ・・・。
形をもたない何かが私の中心をしめつけていた。キリキリと音がきこえてくるようだった。泣きそうだった。こんな作業は、耐えられない。
- 85 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 00:50:39 ID:WMwoFQTB0(3)
- 耐えるのだ。耐えなければならない。そしてこの数年というものは耐えることを日常の義務としてきたのだ。
でも、弟が近づけば近づくほど、私の思いも、苦痛も強くなっていっているような。そんな感じなのだ。
このままここにいれば壊れてしまう。それは予感でもなんでなく次に確実に訪れる事象のように思えた。
誰かにすがりたい。助けて欲しい。誰か私を！
「でもさぁ」
弟が口を開いた。
「あの時何でさぁ」
これから聞くことは救いの言葉なのだろうか、それとも試練を投げかけるものなのだろうか。
「その」
「なんでｷｽしてきたの？」
これは試練だ。間違いない。頭の中は真っ白だった。キスを忘れるための苦行だったのではないのか？
弟がなにを考えているのか分からなかった。
なぜ今キスについてふれるのか。私も、弟も、忘れようとしていたのではないのか。
こんなものは拷問だ。
でも、おかしい。
弟が嫌だったから涙を流した。だから忘れるように言ったのだ。でも、今、弟は自分からキスについて触れてきた。
これは弟のへたなりのアプローチなのではないのか？キスして泣いたのは、私を好きで、嬉しくて泣いたのではないか。
いや、待て。また私の妄想が発露してしまった。
でも、弟からキスについて触れてきた。私の唇は・・・、嫌なものでもないのだろうか？
これが弟の気が遠くなるような本当に遠回りな告白であってくれたなら・・・、私も。私ももう一度だけ、勇気を振り絞ることができる。
「したかったから」
さあ。私の答えはしっかり掲げた。切り捨てるなら一思いに！
「なんだよそれ」
ああ、嫌われた。変であることは昔から自覚していたのだ。
それを弟本人に突きつけられるなんて。絶対に変態だと軽蔑された。死にたい。死んでしまいたい。
「じゃあ俺がしたくなったらしてもいいのかよ」
はい。
- 98 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 01:18:24 ID:WMwoFQTB0(3)
え？
違うでしょ。はい、じゃないでしょ。いや、弟も違うでしょ。それは姉弟として駄目なことでしょう。
口元が緩む。世界中の全てから肯定されているような、世界中から祝福されているような。
私の恋という世界で、弟は確かに万物であった。それが、もしかしたら。まかり間違えば、もしかしたら・・・。
弟の疑問は聞くまでもないことだ。それは世の中の約束事なのだ。
でも、弟の中では疑問の余地があるのだろうか？私の異性的な愛を内心、少しは受け入れてくれているからこそのわずかな疑問が表出したのではないか？
だとしたら。弟をこちら側に引きずり込んでしまうかもしれない。それは不安ではなかった。喜びと希望に溢れていた。
姉として最低なことであることは分かっていた。でも、私の恋する気持ちを止められるものなんてなかった。
私の答えは決まっていた。これを言えば、何か言い訳の出来ない場所に立つことになるような、そんな予感がしていた。
でも、今の私のこの思いを縛り付けられるものは、やはり何もなかった。
「ん？いいよーｗ私はされても泣かないよｗ」
いつにない明るく軽やかな口調だった。余裕から軽い皮肉も挟み込み誘いこんでいるではないか。
弟は立ち上がる。
男の顔がそこにあった。いつも行為に耽るときに思い浮かべる、でも初めてみる肉感的な弟の男の顔。
それは私の中から吹き出る思いのせいであったのかもしれないけど、今の私には分かるはずもない。
男の顔が、唇が、すごい勢いで近づいてくる。
私の女の唇は、弟の男のそれに奪われる。それは一瞬だった。でも弟の甘ったるい唾液が喉を通って全身に溶け込んだように
私の身体を浮遊させて忘我の地へといざなったのだ。
弟は唇を離すと、顔を火照らせたまま、ムキになった仕草で残りの竹の子の里を食べつくし、部屋へと去っていった。
今にしてみるとその仕草がとてもかわいらしくて、思い出すたびに笑いがこぼれてしまう。
- 109 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 01:45:59 ID:WMwoFQTB0(4)
- それからの私は何も手を付けられなかった。
頭の、身体の芯からぼーっとなってしまっていた。
口の中にはキスしたときのふわっとした浮遊感と、甘ったるい味が残っていた。
これは竹の子の里の味が残っていたのかもしれないが、それに関してはどうでもよかった。
弟が飲み物を飲みにやってきた。なんだか話し掛けずらそうというか躊躇を感じた。
「勉強いいの？」
弟が心配だったのかそんなことを聞いてきた。好きな人のことはなんでも気になる。
さっきのキスと、この言葉で、私はなんだか勘違いしてしまって楽しい気持ちがまたあふれてきそうだった。
「いや、なんかもうやる気分じゃないから今日はいいや
あと逃げるぐらいならするなｗ」
素直な気持ちだった。でも恥ずかしさが前面にでていた。でもこのくらいが本当の私なのだ。
「ごめんｗ」
弟も極めて普通に、明るく返事をした。
あのキスのあとでも、その延長に日常がある。昨日の断絶した非日常ではない。それはキスが、私の恋が、日常的なものになりうるのではないか。
そんな大きな希望を抱かせた。
- 120 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 02:14:35 ID:WMwoFQTB0(5)
- 弟が友達に呼び出されて出かけていった。
私は一人で、大きな期待を頭の中で繰り返し続けていた。
弟とキスすることが当然のように許されている。
そう思えるだけで心が躍りだしそうだった。淫乱だと思われるかもしれないが、今までの弟への禁欲生活が
大きなリバウンドをもたらしているのだ。
弟と話したい、弟のそばにいたい。弟とキスしたい。希望は大きくふくらむばかりだった。
物思いだけでもう３時間以上たっていた。
外からは雨音が聞こえだしていた。強い。待っている間ちらちらと浮かんでいた心配は
雨音を意識してから肥大していくようだった。傘はもっていったのだろうか。念のために電話しておこうか。
弟の携帯に連絡する。でた。数時間前まで一緒だったのに、もう会いたい気持ちが止まらなくなっていた。
「雨降ってるけど傘持って行った？大丈夫？？」
当初の目的を告げる。どうやらもってきていないらしい。早く会いたい。
「じゃあ車でそっち行くから場所教えて」
雨音は弱まる気配をみせないようだし、と自分にいらない言い訳をする。車に乗り込む。
ファミレスには弟と、友人がいた。友達の前でなにかおかしなことをしないよう、事務的に後部座席に座るようにいう。
弟の友人を家に送り届けてしばらく進む。最初に後部座席に座ってしまった弟をどう隣の位置に収めようか思案する。
もう我慢の限界だった。数年我慢してやっと開放されたものを抑えていられるほど淡白な女ではないのだ。
路肩に車を止める。
「はい。じゃぁ助手席来て」
ストレートに意図を告げた。早くきて。
「いやいいよめんどいしシートベルトとかさ」
それくらいの手間がなんだというのか。私がどれだけ耐えてきたと思っているのか。
いや、それは弟には関係ないだろう。とにかく隣に、もっと近くに、そばに来て欲しいのだ。
「車で二人しか乗ってないときは助手席に乗せないといけない決まりだから」
なんだかよくわからない理由をでっちあげて弟を誘導しようとする。
弟は素直に後部座席から外にでて助手席に収まる気になったようだった。
- 141 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 02:47:38 ID:WMwoFQTB0(6)
- 後部座席から外にでる。待ち遠しい。赤頭巾を待ち構える狼の舌なめずりを、
心の中ばかりではなく私は実行していたかもしれない。
助手席に入ってきた弟は強い雨に襲われてびしょぬれになっていた。雨が狼じゃなくてよかったね。
と心の中で私の赤頭巾に告げる。
「あーほら頭出して」
バッグからハンドタオルを出して、愛しい頭巾に触れる。拭いてあげるのは口実に違いない。
私は自分の行動の動機を意味もなく推理していた。
近い・・・。唇は自然と、狼は赤頭巾を襲う。それが当然の筋書きだった。弟は目をつぶりうけいれる・・・。
いや、私もつぶっているのだから、実際はどうか分からないのだけど。
ついに待ち望んでいたキスをいただいて、私は弟の唇から赤い弧を離れさせる。
はぁーっと一瞬間の行為を済ませ、息を吐き出す
弟は顔のキャンパスに驚愕を描いていて頭を引こうとしていた。
逃がさない。
弟の頭を拭いていた手で、弟の頭をつかみ、今度はこちらに引き寄せてゆく。
私の〇〇。私の恋人。
全てを私のものにすべく口付ける。今までの一瞬のキスではない。完璧なキス。
弟はもう永遠に私のものなのだ。この瞬間だけでいい。絶対的な確信を抱いてそう思いたかった。
全ての欲求。全ての愛欲、独占欲。全てを満たしても許される。その証が欲しかったのかもしれない。
１０数秒唇を奪い続けて、惜しみながらも解放する。
こんなこと当然で。当然であってほしくて。私は何も言わず、車を再び発進させた。
- 163 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：sage ：2005/05/03(火) 03:16:20 ID:WMwoFQTB0(7)
- 満足した。もう今日やりたいことはやりつくした。私は弟とのキスを許されたのだ。当の本人に。
強引かもしれないが背に腹はかえられないのだ。もう耐え続けるだけは嫌なのだ。
私は、今この瞬間だけでも、本当に〇〇の恋人になれているだろうか？
・・・昨日知りたくても聞き出せなかった弟の恋人。いるのだろうか。それ次第で私はとても仲のよいただの姉位置でしかないのか。それとも・・・初めての女か。
まったく立場が違ってくる。
はぐらかされたということは、いるということではないのだろうか。いないのがはずかしいからはぐらかしたのではないだろうか？
一人で考えても答えがでるわけではなかった。でも、昨日あれだけ聞き出そうとして無理だったのに、今この場で聞きだせるはずがないのだ。
昨日の私と今日の私。何か違うものはないだろうか。何か使えるものは・・・。
あった。今一瞬前に手に入れた、キス。弟に許されたキス。今なら聞けるはずだ。
「ねぇ○○って女の子とキスしたこと今まであったの？」
やっぱり返事を聞くのは怖かったが、弟のさっきのキスが私に勇気をくれている。そんな確信があった。
「いや、ない。」
それでは。
それでは私のキスは。
初めてのキスだ。ファーストキスだ。私は弟の初めてをもらったのだ！そんな馬鹿な！
「イェーーーーーイ！」
運転中だったけど片腕を高々と掲げて雄たけびをあげた。叫びたい。
「なにがイェーーイだよｗ」
世界中に。大好きな弟に。こんなに好きなんだと。こんなに嬉しいんだと。伝えたい。
「イェーーーーイ！」
もう大丈夫だ。弟の初めてをもらった女が、そんなに弱気でどうする。自信を持て。
私の気持ちを信じるんだ。それに答えてくれた弟を信じるんだ。
世界に叫びたい。私は今幸せなのだ。この人を愛してるんだ。
- 328 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/04(水) 01:14:39 ID:RETVZL6/0(3)
- 頬に指の触れる感触が数度続いた。
眠れずに寝返りをうっていたはずだが、いつのまにか朝になっていたようだった。
頬に触れていたのは弟の指先だった。
おはようのキスをしようか、と思ったががっついているようで起き抜けでも自制が働いた。
焦る必要などもうないのだから・・・
「ごめん・・・・あと30分・・・・」
そう、焦る必要はない。弟にそういってまたベッドにもぐりこむ。
「いや寝すぎだからさｗほらｗ」
なんだか弟は楽しそうだった。私を起こすのがそんなに楽しいのだろうか？
「いや・・・結構遅くまで起きてて・・・ごめん本当に30分たったら起きるから・・・」
今の私は色々な事柄を睡眠をむさぼることに結びつけずにはいられない状態だった。
弟が部屋からでていく気配を感じた。弟が離れていったせいだろうか。夢心地もふいにとおざかっていくようだった。
上体を起こし、ぼーっとしていると弟がすぐにもどってきた。
「それ何？」
弟が氷らしきものを手に持っていた。
「いや、食べる？ｗ目、覚めるでしょ？ｗ」
かわいい弟め。いたずらしようとでもしたのだろうか。小憎らしい。私は弟の意図を分からない風を装う。
「いや、それただの氷でしょ？？ｗ」
下手にでるしかない弟をネコじゃらしでじゃらすようにして遊ぶ。
「うんｗそりゃいらないよねｗ」
声を出して笑ってしまいそうになるのをこらえながら、弟がせっかくもってきてくれたプレゼントなのだ、と思って
「ううん、もらう。はい」
下手にでてもらっているついでだ。口をあけあーんする。
弟の愛しい手のひらから冷たい氷が口内に滑り込む。眠気がさめきってゆくが、別の何かが私のなかに霧が買ってゆくような気がした。
「ご飯炊けてるからおかずよろしく」
そうだった。迂闊だった。現実に完全に引き戻され急いでベッドからでて、顔を洗いにいこうとしながら
「うん。ごめんね昨日四時ぐらいまで起きてたから眠くて。出来たら呼ぶから」
急いでいたからか、氷をほおばっていたからかうまく言えていなかったが
弟にはちゃんと通じているはずだと確信していた。それは姉弟の絆のせいであったり、初めての人が私だったという自信のおかげでもあったかもしれない。
- 361 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
：2005/05/04(水) 01:56:17 ID:RETVZL6/0(3)
- 不覚にも午後からの用事も忘れていた。
急いでおかずを作り弟を呼んで食べ終わると、出かける準備を始める。
・・・弟は旅行で数日家をあける。今出かければ数日弟と会えない・・・。
昨日以前の私ならキスが許される状況ならマーキングしたい欲求にかられていただろう。
でも今の私は違う。なぜなら私は、弟の初めての人なんだから。
そのことを頭に反芻すると作業が中断してしまってしばらく不動の状態になってしまった。
いけないいけない。
もうでかけなければ。弟になんと挨拶しようか考えていると弟から
「また明後日ね」
といわれた。弟も別れおしいのだろうか。抱きしめたくなる衝動にかられるが、耐える。
私は初めての女なのだ。ともう一度反芻する。つとめて余裕をもった対応ができるはずだ。
「うん。はいじゃあ握手ｗ」
だからといってこうもかしこまらなくともいいではないか。何をしているのかと自分でも笑いがでてしまうが
これがなんとも手だけとはいえ、肌を触れ合えて満足のいくものだった。今の私はいい仕事をした。
不可思議がっている弟をみて、数日後の弟はどうみえているのだろうか、と考えた。
数日後、弟は新鮮な顔をしているだろうか。それとも、いつもの見慣れた顔をしているだろうか。
どちらにしても私の好きな弟の顔であることには変わりがない。
私が初めての女であることも変わる事はない。そのことをもう一度頭で繰り返して。
実は自分は不安なのではないか、とふいに思った。だから何度も確認しようとしているのかと。
それとも本当に自信をもっていて、ただその充足感を何度も味わいたいだけなのか。
数日後、数年後。そのことについて答えがでるのだろうか。でているのだろうか。
それとも答えをだすことにいみなどないのだろうか。
今私にとって確かなことは数日後の弟の帰りと、デートのことだった。
それは私を幸せにさせるのに十分な、約束された未来ではないか。
表向き淡白な別れを装ってはいたが、心の中ではもう、早く帰ってきてと念を押している女の自分と
私のことは気にせずに友達と楽しんできてねという姉の自分が対決しようとしていた
- 583 ： ◆hLnsxTshq. ：2005/05/05(木) 00:54:22
ID:fuzwwzET0
- どれくらい待っただろうか。
家で待つ間数日がこんなに長いものだろうかと思ったものだったが
ついに弟が帰ってくる日がやってきたのだ。
脚は自然駅に向かっていた。何時に帰ってくるかなんて分からない。
でも一瞬でもはやく会いたかった。
雑踏の中で私は弟と別れたときのことを思い出していた。
「また明後日ね」
「うん。はいじゃあ握手ｗ」
かしこまった別れだった。いくら余裕を持つべきと思っていながらだったとしても姉弟というラインでも
あきらかにそれよりも親しみやすい別れ方をしているだろう。
では、これから弟を出迎えたとき、私はどうしたらよいだろう？そうだ。出迎え方について少し考えておくのがいい。
改札の出口にたどり着くと私は思考に没入していった。
握手以外という前提で候補を挙げてみる。抱きしめる。キスする。腕を組む。
割といい案が出揃った感じではないだろうか。この中で一番やりやすそうなのは腕を組むだ。次が抱きしめる。キスはさすがに人前だと難しそうではある。
ふいに弟の姿が目に入る。帰ってきた。時計は4時をまわっていた。
なんだか寝不足気味の顔をこちらに向けている。ふいに、弟は私とのキスを覚えているだろうか、と頭に浮かんできた。
楽しい旅行で私とのことを忘れてしまってはいまいか。ありえないことであるのは分かっていたのだが。
それは私の中に少なからず後ろ向きな思考を展開させた。
「はい、再開の握手ｗ」
別れたときのネタをそのまま続ける形になってしまった。さっきまでの会議の結果は霧と消えた。
- 612 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/05(木) 01:40:12 ID:fuzwwzET0(3)
- 弟はなんだか恥ずかしそうにしながら私が差し出した手を握り返してくる。可愛いやつめ。
「よく帰ってくる時間わかったね」
この問いにはどう答えるのが一番効果的だろうか。
長い間待っていたことを強調して恩を売ろうか。いや、別にこれは弟に頼まれたわけでもなく、
私が弟に会いたかったから待っていたわけで・・・。
それでも私の思いの強さを少しでも伝えられる答え。そう。そういう答えが欲しいのだ。
帰ってくる時間は分からなかったから長い時間待っていたことは弟も分かっているはず。
なら、気にしなくていいよといって、私の愛の深さ、ひいては懐の深さをさりげなく伝えるのだ。
「どうせ今日は暇だったし人間観察がわりに待ってたｗ」
随分打算的な女だなぁ、と自分でも思ったが、こちらとしては本気な恋愛なのだ。
止めてあった車に乗り込み約束通り映画館に向かう。映画が始まるまで買い物したり食事をとったりしていた。
店内はカップルが多い。他のカップルにすれば私と弟もやっぱりカップルに見えるだろうな。
そもそも姉弟でこんなところに来るほうが珍しいだろうし、むしろ私達も姉弟というよりカップルであるほうが自然でよい。
周りのカップルがたまに腕を組んでいるのを見ると、私も弟の腕に絡みつきたい欲求に駆られる。
でもでも、カップルが腕を組んでいるのだから、弟の腕に触れるのは彼女であるはずだ。弟は私が彼女でもいいのだろうか。
少なくとも私は今弟を彼氏だと言える。けど、弟は私が彼女だと言って許してくれるだろうか。
「あ〜あ。周りはカップルだらけなのになぁ。なんか虚しくなってくるよｗｗ」
虚しくなんかないよ。私がここにいるよ。隣にいるじゃん。
「いいじゃん周りから観たらこっちも一緒一緒ｗｗ」
空元気で一歩引いた感じのアタックをかける。
今は私が〇〇の彼女なんだよ。心の中で必死に訴える。けど、思ってるだけじゃ伝わらないのかもしれない。
なら。頑張れ、私。
弟の腕をとる。私の腕と絡める。
そうだよ。腕を組むなんて誰だってできる。姉だからとか、彼女だからとか。そんなこと関係ない。
好きだから触れ合いたい。どちらにしてもそれだけは共通していて、変わらないものなんだ。
好きって気持ちを伝えたい。それだけなんだ。
- 627 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/05(木) 02:05:07 ID:fuzwwzET0(3)
- 腕を組んだままお店を見て回る。楽しかった。
前の彼氏には悪いけど、これが本当のデートなんだって思った。
これが私の初デートなんだ。
なんだかんだ自分の中で考えていても答えなんか出せない。
でも、弟と、好きな人と触れ合っているだけで、どうしてこんなに幸せな気持ちになるのだろう。
こうしている間は、どんな不安も迷いも決して私に近寄れない。そんな気持ちでいっぱいだった。
お店の中で弟が1つのマグカップをみて手に取った。
どうしたのだろう。気に入ったのだろうか。レジに持っていってそのマグカップを買った。
私にお土産だって。初デートのおまけにプレゼントまでもらってしまった。
「今度からこれでコーヒー飲むね」
身体が熱い。違う。心が温かかった。そのマグカップでもうコーヒーを飲んだみたいに。
映画が始まる時間になり私達は映画館に入っていった。
その間、隣に居る弟を横目で見たり、数日振りの弟の気配を満喫しつつ映画を拝見した。
なんだか弟のまぶたがとろんと落ちそうな気配だった。旅行から帰ってきたばかりで疲れているのだろうか。
でも、デート中に居眠りは許しませんよ、と心の中でしかりつけつついつでも肩に力を入れられるように心の準備をしていた。
結局最後まで頑張っていたみたいで、ねぎらう気持ちやら一個逃したなとか思ったり気持ちが交差していた。
- 638 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/05(木) 02:47:32 ID:fuzwwzET0(5)
- 充実したデートを終えて、私達は帰りの車の中にいた。
「昨日一日何してたの？暇だった？ｗ」
弟が聞いてきた。友達と遊んで暇をつぶしたりしていたが、今日に敵う時間なんてない。
でも、それをいうのはなんだか自分ばかり弟にゾッコンみたいで。いや、実際そうなのかもしれないけど。
でも今の私はなぜか見栄を張りたくて仕方なかった。純粋に弟と遊びたかったのかもしれない。
「買い物したり友達と飲んだり充実した休日を過ごさせてもらったよｗ」
自分の中ではかなり皮肉が利いている素晴らしい出来だったが、当の本人が気づかないみたいだった。
素直に「今日のデートが充実しすぎていて、それに比べればどんな日でも不満だよ」って言えばよかったのだろうか。
そうこう考えているうちに弟は限界がきたらしく小さく寝息を立てているところだった。こっちの気も知らないで。
家についた。弟を起こさなければ。数日振りの弟の帰宅。
充実した1日だった。駅での出迎えの握手は、あれだけは100%満足のいくというものではなかった。
デートと、マグカップのお礼もまだだった。周りには誰もいない・・・。
駅の改札口で考えていた、一番難しい出迎え方。でも一番やりたかった出迎え方。
弟が目覚める。おはよう、私の愛しい眠り姫。
数日振りの口付けに私は瞬間歓喜する。
帰ってきた。その実感が唇から広がってゆく。私の好きな人が帰ってきた。私の弟の出迎え方は、これだったんだ。
家に。私のところに。私の唇に。
「おかえり」
- 220 ： ◆hLnsxTshq. ：2005/05/06(金) 00:02:51
ID:CXKl9eQq0
- ベッドで寝に入っていると、ふいにドアが開いた。
「・・・」
様子を伺う気配がした。少しして閉まる。弟だろうけど、何か用があったのだろうか。
数日前にも同じことがあった。そのときは私と寝たいといっていた。
数日振りに帰ってきて、弟ももしかして私と早く会いたかったのではないだろうか？
私が恋しかったのではないだろうか？
急いで起き上がりドアを開ける。私も思いは同じだ。
気持ちははやるが、それに安全装置が働く。
こんなに私の願いどおりにばかり事が進むものなのだろうか。
性急すぎて後々大きな失敗をするかもしれない。
「何か用？」
そんなことを考えていたら、やたらと慎重なアクセントになってしまった。
「いや、また一緒に寝ようかなと思ったけど、もう寝てたみたいだからさ。ごめん起こしちゃった？ｗ」
起こされて怒っていると取られてしまったのだろうか。慎重になりすぎても駄目なのだ。
私も弟と寝たいのだ。思いは同じはずだ。
「じゃぁ、こっちで寝る。」
弟のベッドに入る。
この前は、最初、お互い別々にベッドと床に寝ていた。でも今日は違う。
私はもう、逃げない。弟が望むなら。
弟もベッドにはいってくる・・・。おやすみとお互いいってしばらく沈黙が続く・・・。
ドキドキ。
緊張の熱と、別の熱が私の身体と心の温度を上げ続ける。目を閉じる。目の前がぐるぐる回っているようだった
覚悟はできてるよ・・・〇〇。
・・・？隣の弟は・・・愛しい弟は・・・安らかな寝息を立て始めていた・・・。
おい！
そんな。乙女の純情を弄ぶなんて、あのかわいらしかった弟はいつからプレイボーイになってしまったのか。
でも、映画館でも眠そうだった。旅行で疲れきっているのに、私との約束に付き合ってくれた。車にのるとすぐに寝むってしまった。
そんなに疲れていながら、私を思いやって、私とデートしてくれたことがただ嬉しかった。
- 237 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 00:15:10 ID:CXKl9eQq0(3)
- なんだか、愛欲で潤んでいた気持ちもおだやかなものに変わってしまった。
愛しい。今日はこのままでもいいではないか。この気持ちをもらっただけで十分気持ちが満たされてしまった。
すでに意識のない弟の身体を抱きしめる。
眠りながら女を満足させるなんてどこまでプレイボーイなんだ。その考えに自分の中でちょっと笑ってしまう。
ただ、眠りたいだけだったら事前に言ってくれればいいのに。
ただ眠るだけで一々覚悟を決めなければならないこちらはたまったものではないのだ。
でもいい。こうやって数日振りに弟を抱きしめて、ぬくもりを感じて、肌をすりあわせて。
今日はこれで許してあげる。好きな人にだけの特別さーびすだ。
と思いつつ、一応文句の1つでも言わせてもらう。
「あんま勘違いさせないでね」
夢の中にいる弟に返信できないメールを送る。夢の中にまではさすがに届かない。
夢うつつの弟の口元が動いた。
なんて言っているのか分からなかったけど、なんだか夢の中でも私の声を聞いてくれているみたいで
なんだか感動してしまった。
夢の中にも私の声が届くなら、どうかお願いします。私の夢と弟の夢を繋げて、
せめて夢の中で愛を交わし合わせてください。そうして覚めない夢の中で永遠に生きさせてください。
- 241 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 00:25:14 ID:CXKl9eQq0(3)
- バイトを終わらせ家に帰宅すると弟が外出していることに気づいた。
昨日弟が旅行から数日ぶりに帰ってきた時、出迎え方の大事さについて結構考えた。
だから今日は私が帰ってきたら、数日振りの弟の「おかえり」が聞けると思っていたから
なんだか少し残念な気分になった。
夕飯は食べてくるんだろうか。そうだ。久しぶりの、と言っても数日ぶりだけど、手料理をたべさせてあげたいな。
弟が帰ってきてから一律に高かったテンションがさらに一気に上がってゆくのが分かる。もう夕方だし、夕食の準備をしよう！
でもその前に弟にご飯どうするか聞かなければ。
気分はなんだか夫を待つ新妻気分だった。
そのとき、私の携帯に着信音がひびく。
まさか、弟だろうか。そうだ、そうに違いない。以心伝心とはこのことだ。手早く携帯を手に取り急いででる。
なんだか聞き覚えのない声だった・・・。いや、弟に比べれば聞き覚えのない声。
元彼だった。
- 258 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 00:51:59 ID:CXKl9eQq0(9)
- なんなのだ。一体なんだというのだろう。
私と元彼の間はもう終わったはずだ。それはいきなりの別れと思われたかもしれないが
自分でもよくわからないくらい長い間深い部分でくすぶっていたものが表出した。その結果別れた。
これは付き合う前からあった気持ちなのだ。弟に敵う男なんていない。
でも、私は自分の気持ちを選択し、この男を切り捨てたから、そのことについて悪いとは思っている。
でも恋愛というのはお互いの気持ちで動いてゆくものだ。私の気持ちが決まった今、もう話すことはないのだ。
その考えを私は正しいと信じているし、それを実行した。それが相手に対して悪い結果であっても
それこそが恋愛のあり方なのだ。今回はその悪いほうが相手に回ってきたのだ。
今でも私とやり直したい相手に悪いとは思うが、私が弟を選んだことを非難できるのは元彼ではないのだ。
数日前の旅行キャンセルと別れについて同じことを繰り返してくる。
そんなにHなことがしたかったのだろうか。私が欲しかったのだろうか。
なんだか段々怒りがわいてくる。それは相手に対しての怒りであったけど、
弟に淫らな思いを抱いていた昨日の夜の私と、この男の数日前のキャンセル前の気持ちは
実はとても似ているものだったのではないか。その考えが浮かんでは消える。
この終わった男と、私の数年間の弟への恋が同じものであったと思ってしまうのが嫌だった。
それは私の弟を汚されたくないという気持ちと、気持ちが同じであれば、いつか私も、万が一弟と結ばれるようなことがあったとしても
この男と同じように私も切り捨てられてしまうのではないか。やさしい弟がそんなことをするはずない、と思う。
でもそんな弟のやさしさすら利用しようとする私の思いの、なんと醜いことか。
そこに思い至らせたこの電話の主に、さらに怒り心頭になる。
口調は怒った時のいつものヒステリー気味なものになっていた。
我慢どころではなかった。
- 283 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 01:18:01 ID:CXKl9eQq0(9)
- 嫌いだ。嫌いで嫌いでしょうがなかった。こんな気持ちにさせる男とやり直せる女なんていない。
世界中探してもいないに違いない。これまでの別れで最悪の別れだ。
こんな気持ちにさせる男だ。赤の他人よりも再び付き合える確率はない。
弟とまったく正反対の存在だった。そうだ。弟が帰ってきている。
こんな。彼氏とはもうだめだって言った。弟には、私は弟だけなのだと宣言したのに。
それなのに。それなのに全部台無しだ。この野朗！
相手は数日前の旅行キャンセルなりについて攻め立ててくる。
「だからそれはこっちが悪かったっていってんでしょうがいつまでもしつこいってんだよ！」
さっきから怒鳴り声を何遍かあげているが弟に伝わっているだろうか。
もうおしまいなんだよ。この男とはなんでもないんだよ。あれは嘘じゃないんだよ。
「さっきから何時間同じ話してんのよ！」
もう愛してない！絆は当に切れてしまっているのだ。
どうしたら分かってくれるのだ。もう思いのない相手とくっつくことはないのに。
私は腕を振り上げその辺のものにたたきつける。大きな音が響いた。
こんなにしても分からないのか。いい加減にして欲しかった。
電話口からは元彼の怒鳴り声が響いてくる。
弟は・・・。弟は心配しているだろうな。やさしい弟がこの罵りあいを聞いて何も思わないわけない。
男は数時間前とまた同じようなことを壊れたCDのように繰り返してくる。
手料理・・・。数時間前には、弟に私の手料理を食べさせてあげようとおもっていたのに。
あのわくわくやドキドキは今どこを見渡しても見つけ出せそうになかった。
でもすぐ近くに、その人がいる。私と男の今の関係は分かってもらえただろう。
もうこんなひどい罵りあいをやさしい弟には聞かせたくなかった。早くおわらせなければ。でも弟にはもう聞かせないほうがいい。
私が弟の立場なら、好きな人の元恋人との話なんて例え別れ話でも聞きたくない。これ以上私の考えで嫌な思いをさせないほうがいい。
いったん、男とは時間をとり、急いで弟のところにゆく。焦っていた。気持ちの余裕なんてなかった。攻め立ててくる男の相手よりも、弟に会う方が気が重くて死にそうだった。
弟は今、どう思っているのだろう・・・。きっといい気持ちではない。それだけは確信していた。
- 297 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 01:35:11 ID:CXKl9eQq0(9)
- 弟の部屋にはいると、やっぱりいた・・・。
「あっ、ね、ねぇち」
怖い
「ごめんねうるさくしててちょっとこれでファミレスでコーヒーでも飲んでて終わったらすぐご飯作ってよぶから」
早口でまくし立てる。勇気のない私。嫌気がさしてしまう。私はこんなに弱い人間なのか・・・。
大切な人の言葉もまっすぐ聞けずに。私は弱虫な人間だ。小さな人間だ。
「あっ、でもっ、俺、あの、夕飯」
弟が私に何か伝えようとしている。でも興奮している私にはそれを冷静に聞くように自分をいさめることもできない。
弟の存在が、大きすぎる。知ることへの恐怖と、稀有である存在であるが故に。その両方が私を聞く耳を持たないヒステリー女に仕立て上げていた。
「ごめんね本当にお願いちょっとはずしてて本当にごめんあと30分ぐらいで終わるから」
早口だけど、謝る。ごめんね。弱い姉でごめんね。こんな罵りあいを聞かせてごめんね。でももう大丈夫だよ。心配しなくていいよ。
きっとなんとかするよ。
「・・うん」
そうだ。そうだ。私の作った料理を食べてもらうのだ。弟との約束を守るんだ。待ってくれている弟が私の力だ。
私は弱いけど、弟への気持ちにだけは自信があるのだ。
この気持ちだけは、何にも負けない。
私は不毛な戦場へともどっていった。
- 304 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 01:44:07 ID:CXKl9eQq0(9)
- 終わった・・・。いや、数日前に私は終わったと思っていた。でもそう思いたかっただけかもしれない。
安心はできないという現状かもしれない・・・。
時計をみると、もう9時を回っていた。今から料理を作っていたら遅すぎて弟に迷惑がかかるだろう。
もう今日はぐだぐだだった。結局約束も守れなかった。これ以上迷惑はかけたくなかった。
弟の携帯に沈んだ気持ちで電話する。
「ごめん本当にごめん。お腹減ってるよね今から作ってたら遅くなるからそっちで何かご飯食べよ。ごめんね」
私のエゴで弟に罵りあいを聞かせて、居たたまれなくなって外で待たせて。本当に申し訳なかった。
こんな私に、弟を好きでいる資格が果たしてあるんだろうか。
弟のいる場所を聞いて急いでその場所に向かう。謝りたかった。とにかく謝りたい。
飲食店に入ると弟の顔が目に入る。
「本当にごめん」
謝りながら近づいてゆく。
「いや、別に気にしなくていいよ。どうしたの？誰かと喧嘩？」
弟は本当にそんなに気にしていないようだった。本当にやさしい。優しすぎる。
でも、やはりケンカのことを聞かれてしまうのか・・・。弟に仔細詳しく話すようなことなんだろうか。そんな時期なんだろうか。
「うん。ちょっとね。その事についてはもうちょっと落ち着いてから話すから、今はまだちょっとごめん」
今の私にも今後どうなるのか分からなかった。また今日のようなことがあるのだろうか。
それだけは嫌だった。
それからひたすら謝る。さっきのこととこれからのこと。謝っても足りないのではないかとも思ったがとにかく今は謝ることしかできない。
ひとしきり謝ってこのままでは弟も何も出来ないので、とりあえずご飯を勧めることにする。
「とにかくご飯食べよ。何にする？」
私が料理を作ると約束していたから、まだ何も食べていないに違いない。私のせいでおなかをすかせてこんな時間まで・・・
本当に罪悪感でいっぱいだった。
「最近奢ってもらってばっかだし、あんま腹減ってないからこれでいいよ」
といってポテトを選んだ弟。
気をきかせてもらって、更に気を使われて。私は益々申し訳なくてしかたなかった。
- 316 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/06(金) 02:11:31 ID:CXKl9eQq0(9)
- お願いだから、これ以上私を攻めないで。実際には気を使われているのに、私はそんな気持ちだった。
攻めないで。その思いの中には、このままでは弟を好きでいる資格すらなくなってしまう、という不吉なものがあって
気を使われるたびにその声が大きくなっていくような気がしていた。
「お腹減ってないわけないじゃん。こんなに待たせたのに、絶対遠慮させないから好きなの食べな。」
そうだ。遠慮なんかさせやしない。私の気持ちを否定させやしない。
「・・・・・・じゃあ・・・このチキンカレーで・・・」
弟がやっと料理を頼んでくれた。その満足感からか、私もお腹がすいていたことに今更ながら気づいて、わりと大きなピザを注文することにした。
今の気分はここ数日で一番姉としての意識が大きくなっていた。それはさっきの弟を愛することの資格についても無関係ではなかったと思う。
母の日どうするかについて話し合った。いつもどおり美味しい物をごちそうするという話で収まる。
さっきの今であんまり家庭的な話は向かないと思ったが、姉の立場の強い私はその会話を選択したのだ。
恋の話から遠ざけたいのかもしれない。逃げ出したいのかもしれない。その言い訳に母の日を使うなんて申し訳なかった。
カレーとピザが来る。私はピザを半分食べ終わったころにはなんだか気分は落ち着きを取り戻したような気がした。
「あ〜私このピザ全部食べられないから、半分食べていいよ。はい。お腹すいてるでしょ？」
今まで待ってくれていた弟に対するお礼と、優しい気持ちをくれた好きな人に対するお礼だった。
弟が残りのピザを食べ始めた。弟のその様子をみていると、なんだか私も満たされていくような気がした。
今日は謝ってばかりの1日だったような気がする。実際そうだったかもしれない。
そのことにうんざりしながらも、出てくる言葉はこの一言だった。
「今日は本当にごめんね。」
- 718 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 01:11:24 ID:J5bwqo3F0(7)
- 家に帰りお風呂にはいった。
今日は弟に迷惑をかけまくってしまった。心から反省しよう。もうこんなこと金輪際あってはならない。
お礼の意味もこめて弟には私の分のピザも食べさせた。もので許してもらおうなんてなんて幼稚なんだ。
でも、弟は気にしてないって言ってくれた。その言葉だけで私はなんだか救われた気分だった。今日一日が洗い流されたような清々しさがあった。
お風呂から上がると、しばらくして弟の足音が聞こえてくる。
・・・？なんだかおかしな音がきこえる。弟はトイレにいるようだ。
様子を見に行くことにした。
「どうしたの？」
弟をみる。・・・トイレの中で戻しているではないか！
「ちょ！何！？大丈夫！？！？どうしたの！？！？」
理由がまったく分からず動転してしまった。本当に、さっきまでまったく調子悪そうにはみえなかったのに。
一体どうしたと言うのだろう。弟が苦しそうに口を開く。
「ごめん実は夕飯友達と一緒に食べててさ・・ちょっと食いすぎかも。ごめうぉいれふぁ；おえｗげろげろげろげろ」
また戻し始めた。かなり苦しそうだった。耐えられずに身体が崩れ落ちた。
「馬鹿！！！何考えてんのよ！何で言わないの！？」
そんな。私の勝手な思い込みに弟は付き合ってくれていたのだ。
私が手料理を作ると約束した時から、弟は私に気を使ってくれていたのだ。
いや、説明しようとしていた弟の話しに、自分の身勝手で取り合わなかった私のせいで気を使わざるを得なかったのだ。そんな。
動転していた私にはしかるようにものをいうことしかできなかった。
どうしてこう不器用なのだろうか。
とにかく苦しんでいる弟の背中に手をあてさすり始めた。
- 737 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 01:20:11 ID:J5bwqo3F0(7)
- どれくらいそうしていただろうか。
弟は次第に落ち着きを取り戻し始めて、居間に移動することにした。
口をゆすいでいる弟をみて、口の中が気持ち悪いだろうと思いぬるめのお茶を入れてあげる。
「だいぶ楽になった・・・ありがとう」
私のせいでこうなったというのに弟は私にお礼を言った。違う。悪いのは私なのだ。
「夕飯食べてたんだったならそう言えばいいでしょ？何で無理したの？？？」
そのことに思い至らせたかったのか。それとも自分の罪悪感に耐えられずに弟に理由を求めてしまっているのか。
どちらかは分からなかったが私はそう口にしていた。
弟を責めようとする私の中の醜い部分は、注文したときでも、私がピザの半分を渡したときでも、
いつでも断ることができたではないか。それをしなかった弟にも非があるのではないか？と問い続けていた。
違う。
分かっていた。弟がなぜそうしたのかは分かりきっていた。
「ごめん、何か言い出しにくくて」
弟は自分の優柔不断さに非があるような言い方をする。
違う・・・。そうじゃない・・・。
「ごめん、今度から気をつけるから。そろそろ寝るよ。」
そうじゃないのだ。
弟が席を立つ。部屋にゆこうと歩みだそうとした弟の背中に追いすがり、抱きつき、その胸に顔をうずめる。
弟は、私の好きな人は、やさしいのだ。
愛しい人の胸に顔をうずめたからか、そのことに思い至ったからか、私の目からは涙が溢れ出していた。
「ちょ、何で泣くの！？いや俺が悪いんだからさ、ほら、」
やさしすぎるのだ・・・。
私の目からはさらに涙がこぼれだしていた。
「ごめんねぇ・・・・自分の事ばっか考えて一人で空回りして・・・・ごめんねぇ・・・・」
本当に私は自分の気持ちしか考えていなかった。この恋より大事な気持ちはないと思っていた。
でも、でも、好きな人が不幸になってしまっては意味がないのだ。わたしの恋が不幸になるより、弟が不幸になることのほうが余程嫌なのだ。
「いや、ほら姉ちゃんは悪くないって！俺が馬鹿なのが悪いんだからさ、泣くなって落ち着けって！」
〇〇は馬鹿なんかじゃないよ。
私には世界一なんだよ。
- 752 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 01:36:17 ID:J5bwqo3F0(7)
- 「もう今日は寝よ。な。ほら。」
弟はそういいながら私の部屋にゆっくり誘って、同じベッドに入る。いつもの高揚感はなかったが、言い知れない安心感に包まれた。
弟のやさしさに包まれていると分かる。
今日の彼氏との口論も私のわがままのせいなのだ。私が自分の気持ちだけを優先して、相手の気持ちも考えずに行動したからいけなかったのだ。
今なら、自分の非を全て認めてしまえそうだった
「私が我侭だから、○○（彼氏）にもひどいことしふぁｗ；えふぁええ」
それも嗚咽でたちどころに消えうせてしまって意味を成さないものに変わってしまった。
やっぱりこんな女と付き合える男なんていないのだ。こんなわがままな女と。
「姉ちゃんは少し我侭ぐらいがちょうどいいんだよ。あんましきにすんな」
そういってくれた弟の言葉に私のずたぼろの心はときめいていた。
今の私にその言葉はプロポーズの言葉以外の何者でもなかった。
こんなわがままな女がちょうどいいなんてゆう男、〇〇以外いないよ・・・。
涙をこぼして、弟に抱きついたまま私は意識が遠のいていった。
自分で招いた散々な1日の終わりでありながら、私の心は安らいでいた。
- 771 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 02:01:00 ID:J5bwqo3F0(7)
- 昨日は最悪な1日だった。
でも、弟のおかげで元気が出た。もう大丈夫だ。
昨日いっぱい迷惑をかけたのだから、今日元気いっぱいで弟を出迎えしよう。元気だって。
もう大丈夫だって宣言しよう。そう決めた。
外では雨音が響いていた。傘はもっていいったのだろうか？この前みたいになければ携帯で連絡してくれればいいし、
とりあえずそのことは脇においやる。元気にお出迎え。元気に。
弟が帰ってきた。でも、弟はびしょぬれだった。なんで連絡してくれなかったのだろうか。身体を壊したらどうするのだろうか。
携帯の電池がきれたのだろうか。
でも口からは心配する言葉がでてこなかった。
「また傘忘れたでしょｗもういつも体にくくりつけたほうがいいんじゃないの？ｗ」
あああ、元気にしようと意気込んだせいか冗談にもっていってしまった。なんてことだ。
心配してるのに。
急いでタオルをもってきて弟に手渡さずにかがませて頭をふく。
「いやｶﾞｷじゃないんだからいいよわざわざｗ」
これくらいやらせてくれてもいいではないか。
「なまいき言うなｗ」
弟の頭をぐしゃぐしゃにする。うん。私は元気だ。
元気に元気に。
弟が箱を差し出した。ドーナッツだった。こんなになってるのにお土産を買ってきてくれたのか。
やっぱり弟もまだ昨日のことを気にしてくれているのだろうか。
なお更心配をかけられないな。
「あーありがとう！ちょうどお腹へってたんだ。コーヒー入れるから一緒に食べようか」
「いや！お腹いっぱいだから！俺今お腹いっぱいだから！！」
なんてことだ。弟はしっかり昨日のことを頭に置いている。なのに私はといえばこれではまったく反省していないみたいではないか。
あは、あははは。弟のイントネーションが昨日の件に引っ掛けた冗談ぽく言ってくれていたので、私は素直に爆笑できて助かった。
自分の部屋に引き返す。元気ってなんだろう。
- 785 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 02:26:24 ID:J5bwqo3F0(7)
- 私は小さいころから優柔不断というかやさしい弟と一緒に手をとりあって姉弟仲良く頑張ってきた。
弟は私に比べて気が小さいから、私がしっかりしよう。弟を引っ張っていこうと思っていた。
でも、今日のように、私がしっかりしなくちゃと思っていると空回りして、
逆に弟は私をしっかり気遣ってくれて、しっかりしている。
今まで私がしっかり引っ張ってきた。その自負があった。
弟にはまだまだ負けないよｗって思っていた。でも、今はどうだろう。
弟は、私が思っているよりずっとしっかり、私よりしっかりしているのではないだろうか？
お風呂を見に行く。弟が沸かしているはずだった。
しっかりしているはずの弟が沸かしていたお風呂は、熱湯にかわっていた。
今弟を見直していたところでこれだ。やっぱり弟を1つの評価で留め置くことなどできないのかもしれない。
優柔不断ってこういうことなのかな、と思う。その弟はといえば
「お詫びといってはなんですが、お背中お流しいたしましょうか」
なんて言ってる。明らかに冗談ではないか。
さっきの評価の高騰ぶりが嘘のようにさがってゆくｗ
「ばかたれｗｗｗ」
でも、なんだか本当に悩み事なんかどうでもよくて、心の底から元気がでているのが不思議だった。
やっぱり弟はすごいのかな・・・？
と、思っているとまたもや弟がやらかした。熱湯を水でうべていたのに、それを忘れてあふれ出していたのだ。
これではコントだ。ひとしきりしかって、頭に突っ込みをいれてやった。
弟をしかりつけると、なんでだかいつもどおりの私が帰ってきたような気がした。
声をあげたから溜まっていたものも外にでていったのだろうか？
私は疑うことができないくらい元気を取り戻しきっていた。
決して定まった評価を下すことができない。おかしな人だ。でも。そんなところも好きかもしれない。
他人には評価できない。でも。私の色眼鏡で言えば、弟はやっぱりすごい人だ。
- 793 ： ◆hLnsxTshq.
：2005/05/07(土) 02:34:23 ID:J5bwqo3F0(7)
- 弟がお風呂にはいっている間、私は弟が買ってきてくれていたドーナッツを食べていた。
昨日までの欝は弟のおかげか吹き飛び、ドーナッツを何の障害もなくおいしくいただくことができた。
おいしいものも食べれたし、上機嫌な状態だった。
弟がお風呂から上がってくる。
「ドーナツおいしかったよ。ありがとう」
さっそくドーナッツのお礼をいう。伝わっているかな。〇〇のおかげでこんなに元気がでたんだよ。
楽しい気分だと次の楽しいことがすぐに頭に浮かんできた。
今日も一緒に眠ってくれるだろうか？今までは、弟がベッドに誘いに来てくれていた。
でも、いいのかな。私が誘ってもいいのかな？弟は私と一緒に寝たいって思ってくれているって。
そう思ってもかまわないのかな。どうしよう。
一人で悩んでもしょうがない。勇気をだして、言うしかない。弟がせっかくださせてくれた元気をありったけつかってやるのだ。
「どうしよう、今日も一緒に寝てもらっていい？何か一緒に寝るほうが良く眠れるんだよね」
よし。今のは普通にいえた。自信のもてる出来だった。何の他意も感じ取れない。はずだ。
実際、ただ一緒に眠りたい。心からそう思っているのだ。
返事は・・・。OKだった。やったぜ。よくやった私。